トリックスター

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「逃走用のヘリでもあるのかと思ったわ。もしかして無策(ノープラン)?」  黒ずくめは振り返り、目だし帽をはぎとった。  若い男だ。優と面識はない。 「……十秒だけ」  男は口を開く。優は銃口を男に向けたままだ。 「依頼された。アンタを屋上(ココ)に誘導しろって」 「……」  誰に? とか何のために? という返答が来るのを予想した男は、無言の優に顔をしかめた。 「聞こえなかったか? 俺は依頼されて──」 「十秒」  告げる言葉はそれだけだ。  銃声が響き、男は倒れた。    、と優は理解した。  何者かが、屋上に優を連れてくるために、黒ずくめに指示を出した。  誰に。とか、何のために。という理由は、どうせ、いずれ分かること。  ピリリリリリ……  ピリリリリ……  スマホが鳴った。  暁さん? それとも聖子?  画面は時刻を表示したままだ。だが着信音は鳴り続けている。とっさに持ちだしてしまった、もう一つの紫スマホを取り出す。   「はぁい。もしもし?」
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