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ルームソファがクッションになったおかけで、ダメージはほとんどない。だが部屋には窓もなく出入り口は一つ。
「あたたっ。袋のネズミってワケか」
藤井が身を起こすが、敵も部屋に入ってくる。
「悪く思うな。これも仕事だ」
初めて黒ずくめが口を開いた。
「へえ、喋れるのかい旦那。そいつは結構。ついでに、この部屋にたどり着けたのは、なお結構。何がいいって、水が降ってねえんだ、ここは」
胸ポケットからタバコを取り出すと、かろうしで水没を免れた一本をくわえる。
末後の一本とでも思ったのか、黒ずくめもドアの前で、待っていた。
そんな一瞬の出来事ではあったが、根は悪い奴じゃなかったのかもしれねえな。と藤井はタバコをくわえたままで、唇を釣り上げる。
ライターを取り出し、火をつける。手に持っていた、ネクタイのほうに。
「なに!?」
「わりぃね旦那。アンタの情を利用しちまった」
黒づくめはとっさに、偽装カップルが持っていた仕込み針に手を伸ばす。だが放たれたそれが、全身に巻き付いた。
その反動で黒ずめは部屋から弾かれて、壁に叩きつけられた。ガッチリとそれが壁に食い込み、動きを封じる。
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