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一瞬のことで理解が追い付かず、自身を固定するものにも目を疑った。
黒ずくめを固定するもの。それは真っ黒な鎖であった。
「どういう、なんだこれは?」
「運がよかったよ旦那。全くもって、雨を降らされた時は焦ったよ。こっちのことがバレてるんじゃないかってな。部屋に放り込んでくれたのは幸運だった、アンタにとっちゃ不幸だがな」
藤井の能力、火鎖式。紐状のものに火をつけることにより、鎖に変化させることができる。鎖の長さ、強度は元になる紐状のものに依存し、ネクタイは長さ、太さともに頑強な鎖となった。
「むっ。くっ!」
「怪力自慢が外せるモンじゃない。ちと手荒だが、洗いざらいしゃべってもらおうか? そうだな、アンタの素性、目的、所属、依頼主などなどな」
いつの間にかスプリンクラーの雨は止んでいた。
藤井がタバコに火をつける。
「……寝言なら寝て言いな」
黒ずくめは鼻で笑う。藤井は頭の後ろをガリガリとかきながら、くわえたばこで、ふぅ。と白いため息をついた。
「あいにくと荒事は苦手なんだが」
そして火のついたタバコを指に持ち替えて、ゆっくりと黒ずくめの眼球に近づけていく。
「さっさと吐いてくれると、ありがてえんだがな──」
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