トリックスター

11/18
前へ
/84ページ
次へ
 一瞬のことで理解が追い付かず、自身を固定するものにも目を疑った。  黒ずくめを固定するもの。それは真っ黒なであった。 「どういう、なんだこれは?」 「運がよかったよ旦那。全くもって、焦ったよ。こっちのことがバレてるんじゃないかってな。部屋に放り込んでくれたのは幸運だった、アンタにとっちゃ不幸だがな」  藤井の能力、。紐状のものに火をつけることにより、鎖に変化させることができる。鎖の長さ、強度は元になる紐状のものに依存し、は長さ、太さともに頑強な鎖となった。 「むっ。くっ!」 「怪力自慢が外せるモンじゃない。ちと手荒だが、洗いざらいしゃべってもらおうか? そうだな、アンタの素性、目的、所属、依頼主などなどな」  いつの間にかスプリンクラーの雨は止んでいた。  藤井がタバコに火をつける。 「……寝言なら寝て言いな」  黒ずくめは鼻で笑う。藤井は頭の後ろをガリガリとかきながら、くわえたばこで、ふぅ。と白いため息をついた。 「あいにくと荒事は苦手なんだが」  そして火のついたタバコを指に持ち替えて、ゆっくりと黒ずくめの眼球に近づけていく。 「さっさと吐いてくれると、ありがてえんだがな──」
/84ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加