トリックスター

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 ◇ 「こんばんわ」  電話の向こうから、若い男の声が漏れた。 「こんばんわ。どちら様?」 「どちら様だって? おれだよおれっ」  誰かと勘違いしているのかと、優はいぶかしむ。そもそもこのスマホの持ち主は織田という男のものだ。   「織田さんに用? 彼は今、旅行に行ってるの」 「あぁあ? そうなの? 困ったなぁ。伝えたいことがあったんだっけどなぁー」 「電話してみたら? あの世と繋がるスマホがあれば、可能かもね」  そう言って切ろうとするが、「ちょっ、ちょっと待った」相手が食い下がる。 「なに? 今ちょっと立て込んでるの。さよなら」 「そ、そっ、そんなこと言わずにさ、せめて話を聞いてよっ。大事な話なんだ!」 「聞くだけなら?」 「た、助かったよ。このまま電話を切ったら、アンタよ。屋上にいるだろ? 不用心だよホント」 「……?」 「警告するけど、動いたら撃つよ?」  スナイパーが近くで待機している? 周囲に注意を払いつつ、会話を続ける。 「話って?」 「アンタをに誘導した男は気の毒だったなあ。アンタさ、問答無用で殺しちゃうんだもん。それと、さっきカップルを撃ったでしょ? 部屋(ルーム)から出てきた若い男女」 「ええ、ナイフと仕込み針を持った二人のことね」 「彼らはさ、刺客なんかじゃないんだよぉん。ただナイフと仕込み針を、部屋から飛び出すように一般人だったんだよねー」
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