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「あたしたちはそういう世界を生きているんだもの。それと、貴方こそ面白いこと言うのね?」
「うん?」
「お先真っ暗? 当たり前よ。日々生きていること自体がそもそも、お先真っ暗なんだから」
優と電話していた男に、無線が入る。
「始末しますか?」
彼女を狙撃するべく、別の場所で待機している者からだ。
電話口を手で押さえ、男は無線に応答する。
「んー。そうだねえ、彼女は思った以上に危険だ。いっそ、始末するか……」
「こちらはいつでも──」
無線に応答する狙撃手は、目を見開き動揺する。スコープ越しに東雲優が、こちらを見て、目が合ったような気がした。
通常、肉眼で視えるような距離ではない。
引き金にかけていた指を反射的に引きそうになる。
そして無線は突然途切れた。
「ん?」
通信障害? 男は眉をひそめたが、スマホのほうは繋がっている。
「もしもーし? あれ? お取込み中?」
「おっとっと、これは失礼。仕事を依頼してた部下が喫煙所に立ったみたいで、あるいはトイレかもしれないが……」
「遠くを見るのが、鷹の目っていうじゃない?」
「鷹? お嬢さん、何の話だい?」
「独り言。あたしを視ていたはずの鷹の目が、もしかしたら今って、違うところを視ているんじゃないかなぁって」
男は双眼鏡を取り出し、狙撃手を配置していた場所を見た。
そこには狙撃手ではなく、メイドが立っていて、スナイパーライフルの銃口をこちらに向けていた。
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