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「……聞こえてたら返事してほしいね。もしもし、メイドさん?」
「感度良好でございます。どうぞ?」
男は左手にスマホ、右手に無線機を持ち、優と暁、双方に聞こえるよう語り掛ける。
「降参だっ。俺はこの場を撤退する。頼む、どうか見逃してくれ」
ガキン。と鈍い音がして、男の立つ左側の排水管パイプに穴が開いた。
「申し訳ございません、電波の調子が悪いのか、見逃せと聞こえたものですから。少々、手元が狂いかけましたわ」
「……おっおぅ。オーライ、分かった、交換条件でどうだ?」
「何を交換するわけ?」
スマホから優の声が響く。
「情報だよ、それを提供する。アンタらの仲間の、もう一人いただろ? ちっこいのが」
「聖子のことね。それが?」
「そいつはこっちで押さえた。月並みな言い方だが、無事に返してほしけりゃ、俺を見逃せってことさ。オッケ?」
「あらそう。答えはノーよ」
間髪入れずに突きつけられた返答。
「そうか、ってえ!? 拒否? ちょい待ちなよ、本気か?」
「聞こえてなかった? ノーよ、いいえと言ったの」
「冗談、仲間だろ? 見捨てるのか?」
「仲間よ。だけど、だから? って話よ。彼女は家族でも親友でもないの、いい? 私たちの『仲間』よ」
「……マジかよお嬢さん。アンタはアレか? 血も涙もねえってのかい?」
「じゃあ聞くけど、狙撃手も屋上に誘導した男も、あんたの仲間じゃなかったの?」
「……そりゃあ仲間だよ。だがね、あくまで仕事上の、利害が一致してるだけの関係で──」
ああ、そういうことか。と男はつぶやく。
「お宅らもそうだって言いたいんだな?」
「そうよ。察しがいいじゃない」
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