トリックスター

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 暁は東雲家のメイドで、藤井と聖子はあくまで仲間。優先順位は言うまでもなく──ということか?  男は思案しつつも、言葉を続ける。 「だから簡単に見捨てるんだ。世知辛いねえ」 「いいえ、よ。あたしが逆の立場になってもそれは同じ。頼ったり依存するだけが、仲間じゃないもの」 「ふうぅ。オッケィお嬢さん。けど世の中には、気持ちで割り切れても、事情で割り切れないってこともある」  高笑いしたり挑発するわりに、冷静で的確な分析もする。スナイパーライフルを突きつけられているのにも関わらずの、この胆力。 「ケース・バイ・ケースでしょ。まあ、否定はしないけど」 「ねぇ、交戦中の藤井さんも何とかしようか? 悪い話じゃないだろ? 俺をここで見逃すだけで、二人のことは保障する。あ、でも聖子ちゃんだっけ? 彼女に関しては別の組織が絡んでいるからさ、安全の保証はできないや。どこに連れていかれたか、だけは教えてあげられるけどね」 「聖子はともかく、博之さんも? あの人はそんな弱くはないわよ」 「戦況を視る目が甘いね。俺はなんで最初に、花火を上げたと思う?」  遠くから聞こえるパトカーのサイレン音。 「このおみせ、ひじょーべる押したみたい」  聖子の言葉を思い出す。なるほど、この為ね。 「互いに時間もない。悪くない話だと思うけど?」 「そうねぇ……」  返答の間近、優のスマホに、暁から通信アプリでメッセージが入った。 「情報を聞きだしたら、始末致しますか?」 「……」  優は、返事を打ち込み、送信ボタンを押そうとした、その時──「ああ、そうそう」男が続ける。
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