トリックスター

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「藤井さんの件は?」 「俺を見逃してくれれば、こちらでどうにかする」 「了解、交渉成立ね」 「信じてくれる? ふふ、俺は嘘つきかもしれないよ?」 「構わないわ。あなたの狙いは、もう理解したもの」  互いが息を呑む、一瞬の間が空いた。 「……へえ? どんな?」 「言うわけないじゃない」  電話を切る。  思ったより長電話のせいで、すっかり日が落ちていた。 「いかがなさいますか?」  暁の通信アプリから音声が届いた。  銃を構えながら、インカムを使用したようだ。  彼女の腕ならば、この状態からでも男を狙撃することは可能だった。 「いいわ、逃がしてあげて」 「かしこまりました」  スマホを収める。 「思わぬ伏兵、トリックスターってトコね」  優は独り()つ。  トリックスターとは、詐欺(さぎ)師やペテン師を指す言葉でもある。 「それはそうと、そろそろ撤退しなきゃ」  いずれ遠くない再会の予感を抱きつつ、カラオケボックスに放たれた火の手は、屋上まで迫りつつあった。    手近な非常階段に向かって歩き出した。
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