プランB

2/12
前へ
/84ページ
次へ
 カラオケボックスに火が上がる中、正面の入口から堂々と姿を見せたのは、藤井博之だった。  消防団員や、助けを求める避難者、野次馬にうまく溶け込む。  小さくなったタバコを吐き捨て、ジャケットを無造作に、肩にかけた。  結局、黒ずくめの男は最後まで口を割らなかった。  だが、いくつかは分かったこともある。  最後の一本になったタバコを取り出し、口に運ぶ。  ふと、横から手が伸び、火が点ったライターを差し出された。  藤井は躊躇するも、苦笑いしタバコを近づけた。 「ありがとよ」 「いえ。このくらい、なんということはありません」  男はニコリともせず答える。やや小柄ではあるが、手入れの行き届いた黒スーツに身を包み、ピッチリと整えられた髪に銀縁メガネ。一目でエリートと分かる風貌の男だった。 「……火ならで上がってんだが、タバコをつけるにゃデカすぎてな」  消火活動が進むカラオケボックスを指さす。 「ご無事で何よりです。その件で、二、三お伺いしたいのですが」 「そりゃ任意か? 」 「そうです。と言ったらどうします?」 「拒否する。任意なら問題ねえだろ?」 「そうはいきません。まわりにうまく溶け込んでいましたが、貴方はあのカラオケボックスから出てましたよね? ……藤井。お話を聞かせてもらえますか?」 「……俺はもう警察じゃねえぞ、松坂(まつざか)巡査長」 「今は警部です。元、藤井警部補」  くいっ。と眼鏡と唇の端を釣り上げる。  明らかな挑発に、藤井はふんっ。と鼻で笑い、松坂に詰め寄った。
/84ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加