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松坂のつぶやきに、藤井も足を止める。
「あの事件……双子を救えなかった優甲斐事件を最後に、アナタは警察を辞めた」
藤井はタバコの煙を吸い、視線を落とした。
「ケジメだよ。守ろうと思っていたモンは、みんな指の隙間から零れ落ちていった。家族も息子も、例の双子も追い付めた犯人も、何もかもだ。最後に残ったのは本署の警部補という、チンケな階級。タバコの灰みてえに、吹けば飛ぶようなシロモンさ。俺はもう組織には属さねえ。探偵として『櫻井』を追い詰めると決めた。ただその為に、生きてる」
松坂はぐっ。と拳と歯に力をこめ、言葉を続ける。
「カラオケボックスに火を放ったのは、先輩だと思っていました。警察を辞めて自暴自棄になって、放火でもしたのかと。しかしどうやら、違うようだ」
あえて質問ではなく、独り言という体を取っているので、松坂は藤井と視線を合わせない。どこか、遠くの空を見ているようだった。
「でかい火を見るのは、ガキの頃の、キャンプ・ファイヤー以来だな。だが出火に関しては俺じゃねえ。ヤケになってどでかい花火を打ち上げるほどの甲斐性も野暮もねえ、今はシケた花火を庭先でこっそり楽しむ、そんな人生さ」
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