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大阪に引っ越してきてから、あっという間に毎日が過ぎていたけれど、夜になると、どうしても駿のことを思い出してしまう。
いい加減忘れようと思うのだが、何度も何度もスマートフォンの駿との最後のやり取りを見直してしまっていた。
どうということのないやり取り。
『今から新しい担当者と行くから』
『うん、わかった』
…駿…ちゃんと食べてるだろうか。いつも俺の作る飯、美味いって…
思い出すと泣けてきてしまう。
16歳の駿を初めて見た時から、どうしても放っておけないようになってしまった。
俺がこの子を救うんだ、と変な正義感で。
気がついたら俺のほうが救われてたなんてな…
寝転んでスマートフォンを見ながら、ぼんやりと考えていると、いきなり着信が鳴った。
ブーッブーッ
「はい、町田ですが」
『あ、新しい編集長さん?』
「あ、はあ」
『中河原やけど』
「え?中河原先生?!」
町田は、思わずベッドから飛び起きた。
『なあ、今からちょっと来てくれへん?』
「え?今からですか?」
時計を見ると23時を回っている。
『うん、さっき山川さんに電話したら、この番号教えてくれて。これからは、こっちにって言われてん』
山川め…もう、さっそくこっちに振ってきたのか…
なかなかちゃっかりした奴だ、と思いながら、分かりました、と返事をした。
慌ててジャージからスーツに着替える。
さすがに初対面で普段着という訳にはいかない。
顔を洗って髭を剃り、髪を整えた。
確か若い先生らしいけど…
駿を満足させていたのだから、まぁ大丈夫だろうと変な自信を持った。
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