2

2/8

60人が本棚に入れています
本棚に追加
/44ページ
その夜は、伸び伸びになっていた町田の歓迎会を四人が開いてくれた。 大阪の繁華街にある個室の居酒屋。 酒の種類も食事のメニューも豊富で、町田は嬉しくなる。 「さすが大阪だねえ。メニューが多い」 「でしょ?しかも安いんです」 「それって所長に失礼違う?」 「いや、安くて美味いんやから、いいやん」 ワイワイと話が止まらない。 誰かが話すと誰かが反応する。 ボケるとツッコむ。 こんなところにも大阪の文化があるのだ、と町田はポンポンと弾む話に付いて行けずに、ただ聞くばかりだった。 ひなた書房大阪営業所は、小さいながらもやり手揃いで、しっかりと利益を出していた。 作家の作品作りのアドバイスや手助けをしたり、あちこちの書店と掛け合ったり。 みんながよく働くいい営業所だった。 1番古株は、香坂隆コウサカタカシ、32歳。体育会系の熱血タイプで、学校関係に太いパイプを持っている。 見た目の濃さからよく沖縄出身かと聞かれるらしいが、実は京都の呉服屋のボンボンらしく、あまりのギャップで、覚えられやすいらしい。 もう1人の吉田太一ヨシダタイチは、25歳で、この中では1番の若手。 眼鏡をかけたポッチャリ体型で、お人好しの性格は、どこに行っても絶対に嫌われない。 美味しい手土産をよく知っていて、みんなから頼りにされているらしい。 山川大樹ヤマカワダイキ28歳は、1番の長身イケメン。 女性の絵本作家を多く担当していて、彼女達の食の好みからファッションのことまで精通している。 多分。多分だけれど、何人かと寝ているんじゃないか、と町田は思っている。 真壁愛子30歳はバツイチだけれど、見た目が若く、綺麗に巻いた髪からいつもいい匂いがしている。 おそらく腐女子のようで、町田の一挙手一投足に興味津々で、楽しくて仕方ない、という顔をしている。 町田は、そんな四人の個性的な面々の話を聞きながら、ある意味、カルチャーショックを受けているところだった。 そのうちに慣れて、自分もそうなるのかと思うと軽く目眩がする。 けれど毎日が賑やかで、笑いが絶えなくて、あっという間に1日が過ぎていった。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

60人が本棚に入れています
本棚に追加