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「そやけど、確かに町田所長やったら合格すると思うわぁ」 同じく酔ってきた愛子が言う。 「色気あるもん、私も合格!」 そう言いながら、抱きついてきた。 「あー!愛ちゃん、酷いわ…」 高坂が泣きそうになっている。 「高坂、振られたな」 吉田と山川が笑っている。 「高坂くん、性格、暑苦しいねん」 淡々とキツいことを言われているが、高坂は、なんだか嬉しそうに笑っている。 町田は振り払うことが出来ずに、愛子に抱きつかれたままで、ハハ…と力無く笑った。 「東京に残してきた彼女とか居ないんですか?」 愛子は、抱きついたままで聞いてきた。どうやら、ロックオンされたらしい。 「彼女ねえ…」 駿のことがまざまざと思い浮かぶ。 「めちゃくちゃ惚れてた子がいたんだけどさぁ…」 酔いに任せて話し出してしまった。 「俺の一方通行だったよ、結局」 「へぇー、町田所長みたいな人でも振られたりするんやぁ」 愛子は意外そうに言う。 「そらそうやろ、誰でも好みってあるし」 山川が言った。 「松野坂先生なんか、もう吉田にべた惚れやしなぁ!」 と言って吉田を見る。 「あー、確かに!」 愛子が言った。 松野坂サヤコは、50代の独身童話作家で、結構売れている。 その松野坂は、吉田以外の編集者を受け付けないらしい。 「いやあ、それは俺がいつも美味しい物持っていくからで…」 としきりに照れながら言う。 けれど、きっとこの優しい性格に松野坂先生は癒されるのだろう、と町田は思った。 「歳とってくるとさ、癒して欲しくなるからなぁ」 町田は言う。 「そおなんですかあ?町田所長、愛子が癒してあ、げ、る」 愛子が更にきつく抱きついて、胸を押し付けてきた。 「あー、ハハハ…ありがとう。でもほら部下と関係すると何かと、ねえ」 町田は、笑って誤魔化す。 「愛子、お前、フラレてるでぇ」 山川が笑う。 「えー、残念!ワンナイトでも良かったのにぃ」 愛子は残念そうにしながら、手を離した。 何処までが本気なのか分からない。 このノリについていけるだろうか、と町田は不安になってきた。
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