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「なんていうか……少し言い辛いんですが」 大阪営業所に来て1ヶ月。 町田寛文は山川という編集者から、二人きりで告げられた。 「はい?なんでしょう。なにかあれば、仰ってくださいね」 町田は得意の営業スマイルでニコリと笑う。 「はい、あの、今うちで一番売れっ子の中河原悠介先生なんですが」 山川は、絵本や童話を展示している場所に行き、1番目立つ所にある赤ちゃん向けの可愛らしい表紙の絵本を取りだした。 「ああ、中河原先生ですね!人気ありますよねぇ」 町田もこの本は、よく知っている。 「大阪の方ですよね、ご挨拶しないと、と思っていました」 町田は、絵本をパラパラと捲る。 柔らかい絵が心を癒してくれる。 「はい、それで、ですね」 山川は、また少し言い淀む。 「はい」 町田は、山川の顔を真っ直ぐに見た。 「実は、その先生、男性が好きなんです」 山川は声のトーンを落とす。 「あ、はあ」 同類か……町田は少しドキリとした。 「で、自分の気に入った編集者を指定して来て。あ、もちろん男性を。で、相手をしないと描いてくれないんですよ…」 山川は、はぁ…と深くため息をついた。 「女性だったら良かったんですが」 そう言って下を向く山川は、おそらく28、9と言ったところか。スッキリとした顔立ちのイケメンで。 「あ、もしかして、山川さん気に入られちゃったんですか?」 町田は、山川の顔や身体をこっそり値踏みする。 …これは、完全なストレートだよな… 気の毒に… 心の中で同情した。 「内緒にしてください…。実は、どうしても仕方なく、途中までしたんですが…。やっぱり反応しないでしょう?だって男ですよ?そりゃあ男にしたら、可愛い方ですけど」 「うんうん、分かります」 町田は、同意した。 「町田所長、どうしたらいいですか?俺、もう……」 「大丈夫ですよ」 ぽんぽん、と町田は山川の肩を叩いた。 「私がなんとかしますから」 「え?本当ですか?」 「はい」 ニッコリと町田が笑うと何故か山川は、ポッと顔を赤らめた。
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