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あれ?
僕はいつまで寝てたんだろう。
周りはとっくに薄暗くなっていて、僕はどうやら寝過ごしてしまったようだった。お寺の境内で遊んでいた友達は、既にみんな帰ったようで、人っ子一人見えなかった。
まったく、みんな薄情だよなー。帰るのならひと声かけてくれれば良いのに。僕は、そう思いながら自宅への近道である境内の裏門に向かって歩き始めた……
と、その時、何処からか現れた大人の人が僕に声をかけて来た。
「おい、君。そっちは、危ないから表門から外に行こう? おじさんも娘を迎えに来たんだ、娘と一緒に表門から帰ろう」
大人の人の右側には小さな女の子が立っていた。僕がその女の子を見た瞬間に、何故か背筋がゾワリとした。
真っ赤なシュシュで髪の毛を無造作に後ろでまとめてる、ピンクのワンピースを着た小学生低学年の女の子だった。彼女は無表情で僕の事をじっと見つめていた。
おじさんが迎えに来たという事は、その女の子も境内で遊んでいたはずなのに、僕の記憶には一切なかったし、なによりも彼女が履いている真っ赤な靴は新品のようで境内で遊んでいたには違和感があったからなのだろう。
僕が、おじさんの言葉に躊躇して考え事をしていたら、気が付くとおじさんはぼくの目の前に立っていた。そして、ぼくの左手を掴もうとしてきた。
僕は慌てて手を引っ込めて、裏門に向かって走り出した。
「そっちは、君の行く方向じゃないぞー。私たちと一緒に表門から行こう」
おじさんは、なんども僕に声をかけて来るけど、僕は両手で耳を塞いで必死に走って裏門を抜けた。
* * *
「おい! 大丈夫か?」
「良かった。心拍数が戻りました。意識を回復した見たいです」
気が付いたら、僕はベッドに横たわっていた。
僕の傍には、僕の胸を必死に押し続けていたお医者さんらしい人と、ベッドの横の器械を見ながら何かを叫んでいる看護師さんがいた。
看護師さんの向こう側のベッドには、顔のあたりを真っ白な布で覆われた少女が横たわっていた。
なぜ隣のベッドに横たわっているモノが少女だってわかったかって?
だって、真っ赤なシュシュが顔にかけられた白い布からはみ出てたし、小さなシーツに覆われた足元からは、真っ赤な靴が見えていたのだから……
(了)
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