20人が本棚に入れています
本棚に追加
13
西は四階の事務所に連れ戻されていた。
黒人が西の後頭部を掴みあげ、壁際の長机に顔面を叩きつける。
ベニヤ板が皸割れ、西の額に裂傷が疾る。
西が両手で顔面を覆う。
黒人は西の後頭部を両手で掴み自分の方に引き寄せ、大木のような右膝を続けざま鼻頭にぶち込む。
一撃毎に西の靴先が床から浮く。
黒木が腕組みをし、ニヤけ面でリンチを眺める。
鼻が潰れた西を黒人が羽交い締めにし正面を向かせる。
短髪の男が西の顔面をサンドバッグのように殴る。
みるみる顔が腫れ上がり瞼が塞がる。
短髪が続けて西の鳩尾に鋭角に曲げた右膝を突き刺す。
「う……」
西が床に両膝をつき前のめりに倒れた。
短髪が西の左脇腹に狙いを定め右足を引く。
そのとき、入口の扉が勢いよく開いた。
振り向いた短髪の左頬を英二の右ストレートが抉る。
英二はよろけた短髪の背後に周り、短髪の右脇腹に左のボディを突き刺す。
短髪の顔が苦悶に歪む。
「おまえ!」
驚いた黒木が銃を抜く。
短髪が邪魔になり狙いを絞れない。
銃口が迷う。
英二が左右の連打で短髪の顔面を揺らす。
短髪はよろよろと長机に尻を乗せた。
英二が短髪の正面に廻る。
息を止めラッシュを繰り出す。
短髪の全身が小刻みに揺れ汗が飛び散る。
英二は短髪の右の肋骨と腹との境目にある肝臓に、左アッパーを突き上げ手首までねじり込む。
短髪はぱかっと口を開け「おえええ……」と呻く。
両手で腹を押さえ頭から床に倒れ込んだ。
悶絶し身体を海老のように動かしたがそのまま気絶した。
「おい! ゴー! キルヒム!」
黒木が黒人を煽る。
黒人が両脇を締め拳を身体の前に構える。
英二と正対する。
前回英二にやられているため、筋肉が強張っている。
黒人の右肩の筋肉がピクリと隆起し上半身を左に捻る。
瞬間、足二つ分左にステップしながら膝を低くした英二が床を蹴り、床から這い上がるような右アッパーで黒人の左顎を突き上げる。
顎が天井を向き喉が伸びきる。
両腕がだらんと落ち、腹の急所が露わになる。
英二は左右の拳を左脇腹、右脇腹、鳩尾に怒涛の勢いで打ち込む。
黒人の両膝が、がくがくとわななき、上半身が前のめりになる。
英二は瞬速の左フックで黒人の右頬を削り、返す右拳で左のテンプルを撃ち抜いた。
脳がぶるんと揺れた黒人が白目を剥く。
覚束ない足を絡ませ、そのまま右横に昏倒した。
英二の視界から黒人が消えると、黒木の銃口が狙っていた。
「おい、この前の礼だ。死ね」
黒木が引き金の指先にぐっと力を込める。
パン! と乾いた音が鳴り銃口が火を噴く。
黒木が顔をゆがめとっさに太腿を押さえる。
黒木が引金を引くよりも早く、這いつくばった西の改造銃が火を噴き、黒木の左太腿を貫いていた。
太腿を掴む黒木の左指の隙間から血がどくどくと溢れる。
英二が頭を低くし床を蹴る。
黒木に肉薄し渾身の右ストレートで黒木の鼻骨を潰す。
黒木が咄嗟に鼻を押さえる。
腹はガラ空きだ。
英二は「ひゅっ」と一息吸い、地の底から突き出るような左アッパーを黒木の肝臓に突き刺す。
一瞬息が詰まり黒木がぼんやりと英二を見る。
右手の指から銃が滑り落ちる。
そのまま左右のフックで黒木の頭を揺らす。
続けて直線を引くような右ストレートで顎先を跳ね上げた。
黒木の頭がガクンと左に落ちる。
よろよろっと足を交差させそのままどさりと横倒しになった。
英二は深い息を吐き拳で汗を拭った。
「あんた、大丈夫か?」
西に肩を貸し立たせる。
「あ、あんた……何者だ……?」
「それより、ここは出た方がいい」
英二は西に肩を貸し、一階まで降りた。
大久保通りでタクシーを拾い西と後部座席に乗り込む。
「とりあえず出してください」
二人が乗ったタクシーが走り出したとき、すれ違うように、反対車線に黒いセダンが滑り込んだ。
セダンから降りた柴崎らは慌ただしく玄関ロビーに駆け込んで行った。
最初のコメントを投稿しよう!