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 西は四階の事務所に連れ戻されていた。  黒人が西の後頭部を掴みあげ、壁際の長机に顔面を叩きつける。  ベニヤ板が皸割(ひびわ)れ、西の額に裂傷が疾る。  西が両手で顔面を覆う。  黒人は西の後頭部を両手で掴み自分の方に引き寄せ、大木のような右膝を続けざま鼻頭にぶち込む。  一撃毎に西の靴先が床から浮く。  黒木が腕組みをし、ニヤけ面でリンチを眺める。  鼻が潰れた西を黒人が羽交い締めにし正面を向かせる。  短髪の男が西の顔面をサンドバッグのように殴る。  みるみる顔が腫れ上がり瞼が塞がる。  短髪が続けて西の鳩尾に鋭角に曲げた右膝を突き刺す。 「う……」  西が床に両膝をつき前のめりに倒れた。  短髪が西の左脇腹に狙いを定め右足を引く。  そのとき、入口の扉が勢いよく開いた。  振り向いた短髪の左頬を英二の右ストレートが(えぐ)る。  英二はよろけた短髪の背後に周り、短髪の右脇腹に左のボディを突き刺す。  短髪の顔が苦悶に歪む。 「おまえ!」  驚いた黒木が銃を抜く。  短髪が邪魔になり狙いを絞れない。  銃口が迷う。  英二が左右の連打で短髪の顔面を揺らす。  短髪はよろよろと長机に尻を乗せた。  英二が短髪の正面に廻る。  息を止めラッシュを繰り出す。  短髪の全身が小刻みに揺れ汗が飛び散る。  英二は短髪の右の肋骨(あばらぼね)と腹との境目にある肝臓(レバー)に、左アッパーを突き上げ手首までねじり込む。  短髪はぱかっと口を開け「おえええ……」と呻く。  両手で腹を押さえ頭から床に倒れ込んだ。  悶絶し身体を海老のように動かしたがそのまま気絶した。 「おい! ゴー! キルヒム!」  黒木が黒人を煽る。  黒人が両脇を締め拳を身体の前に構える。  英二と正対する。  前回英二にやられているため、筋肉が強張(こわば)っている。  黒人の右肩の筋肉がピクリと隆起し上半身を左に(ねじ)る。  瞬間、足二つ分左にステップしながら膝を低くした英二が床を蹴り、床から這い上がるような右アッパーで黒人の左顎を突き上げる。  顎が天井を向き喉が伸びきる。  両腕がだらんと落ち、腹の急所が露わになる。  英二は左右の拳を左脇腹、右脇腹、鳩尾に怒涛の勢いで打ち込む。  黒人の両膝が、がくがくとわななき、上半身が前のめりになる。  英二は瞬速の左フックで黒人の右頬を削り、返す右拳で左のテンプルを撃ち抜いた。  脳がぶるんと揺れた黒人が白目を剥く。 覚束(おぼつか)ない足を絡ませ、そのまま右横に昏倒した。 英二の視界から黒人が消えると、黒木の銃口が狙っていた。 「おい、この前の礼だ。死ね」  黒木が引き金の指先にぐっと力を込める。  パン! と乾いた音が鳴り銃口が火を噴く。  黒木が顔をゆがめとっさに太腿を押さえる。  黒木が引金を引くよりも早く、這いつくばった西の改造銃が火を噴き、黒木の左太腿を貫いていた。  太腿を掴む黒木の左指の隙間から血がどくどくと溢れる。  英二が頭を低くし床を蹴る。  黒木に肉薄し渾身の右ストレートで黒木の鼻骨を潰す。  黒木が咄嗟に鼻を押さえる。  腹はガラ空きだ。  英二は「ひゅっ」と一息吸い、地の底から突き出るような左アッパーを黒木の肝臓に突き刺す。  一瞬息が詰まり黒木がぼんやりと英二を見る。  右手の指から銃が滑り落ちる。  そのまま左右のフックで黒木の頭を揺らす。  続けて直線を引くような右ストレートで顎先を跳ね上げた。  黒木の頭がガクンと左に落ちる。  よろよろっと足を交差させそのままどさりと横倒しになった。  英二は深い息を吐き拳で汗を拭った。 「あんた、大丈夫か?」  西に肩を貸し立たせる。 「あ、あんた……何者(なにもん)だ……?」 「それより、ここは出た方がいい」  英二は西に肩を貸し、一階まで降りた。  大久保通りでタクシーを拾い西と後部座席に乗り込む。 「とりあえず出してください」  二人が乗ったタクシーが走り出したとき、すれ違うように、反対車線に黒いセダンが滑り込んだ。  セダンから降りた柴崎らは慌ただしく玄関ロビーに駆け込んで行った。
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