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 四菱ホールディングスCSIRTの岡田課長は、自宅謹慎中の棚橋の代理として業務に忙殺されていた。  三日前の月曜日。  四菱自動車は記者会見を開き、道義的責任については謝罪をしたが、クレイオスの製造責任については、調査中として明言を避けた。  全国ネットで放送されたこの会見に対して、一部のジャーナリストが批判し、世間の四菱自動車への風当たりも強かった。 「横尾君、明日も自動車で会議があるんだけど、深掘分析(ディープアナリシス)が重要なテーマなんだよ」 「そうですか。たしかに、深掘分析の結果次第では、四菱自動車もハッカーの攻撃を受けた被害者だって証明できますから、世論に大きく影響しますね」 「そうなんだよ。ハッキングによる自動運転車の事故の責任は国が保障するって、政府が方針発表してるし」 「ええ。たとえば盗難車が事故を起こしたら、車の持ち主には責任が無く、事故を起こしたドライバーの責任だけを問うのと同じ考え方でしたね」 「そう、それ。普通の事故だと保険使うと保険料が上がるけど、盗難車が事故を起こして保険使っても保険料は据え置き。考え方は一緒だよな」 「はい。そう考えるとなおさら、クレイオスがハッキングされてたことを証明出来るかどうかが、重要になってきますね。クレイオスはハッキングで操られてたのか、それとも、クレイオスに欠陥があったのか……」  岡田が腕組みをして、悩ましい顔を向ける。 「で、これを明日私が、自動車の技術陣の前で説明しないといけないんだよ、TODOも含めて。ただ、棚橋部長や横尾君ほど知識が無いから、どうポイントを絞って説明したものか……」 「そうですね……僕から棚橋部長に、聞いておきましょうか?」 「え? それは助かる! それを明日の午前中に、私にも分かるように、説明してくれるかな?」 「承知しました」  隆はさっそく棚橋にメッセージを送った。  数分と間をあけずに棚橋から返信が届いた。  英二はその夜、棚橋と八重洲で会う約束をした。
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