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 隆は二日ぶりに出社した。  岡田課長は離席していたが、午前十時過ぎにデスクに戻ってきた。 「課長すみませんでした。こんなときに二日も休みを頂いて」  岡田にはヤクザに監禁されたことは話していない。 「いや、忙しすぎたんだ、疲れが出たんだよ。それより……」  応接室に行こうと、岡田が目で促す。 「今朝、急に人事に呼ばれて行ってきたんだけど、棚橋部長が辞表を提出した……」 「ええっ! 部長が? いつですか?」 「昨日の午後、ご本人が人事に持参したって。人事は慰留しようと、保留にしてたんだけど、今朝本人から意志は固いので進めてくれとメールが入って、それで人事が私にも連絡してきた……」 「それじゃあ……」 「うん。残念ながら、辞表は受理された……」 「そんな……頼りにしてたのに……」 「そうだよな……棚橋部長ほどの人柄と専門スキルが揃った人は、なかなかいないよ。やっぱり、ウチの古臭い体質が合わなかったのかなあ……」  隆は応接室を出ると棚橋の携帯に電話をかけてみた。  何コール鳴らしても、棚橋は出なかった。  隆は岡田に棚橋の退職理由を確認したが、人事にも一身上の都合としか伝えておらず、誰にも理由が分からなかった。  せめて、挨拶ぐらいさせて欲しかった。  あまりにも急な退職に、隆は釈然としないものを感じたが、それが何なのか、このときの隆には分からなかった。
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