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 四菱重工の武藤ら三人は、大惨事の対応に追われていた。  本社や防衛省から、電話やメールが相次ぎ、部長の三沢と課長の橋本が対応に追われる中、取締役の武藤はプレスセンターで、世界中の報道陣に囲まれていた。  事故原因は不明で、武藤は、事故の被害者とその家族にお悔やみを述べるだけが精一杯だった。  当然のように、小型ジェット機YRJの仮契約は、全てキャンセルになった。  F36の爆発事故発生からおよそ一時間後。  日本時間の夜十時に、隆はネットニュースでこの大惨事を知った。  慌ててテレビをつける。  どの局も夜のニュースで繰り返し速報を打っていた。  死者十数名、負傷者は二百名以上。  日本人の被害者の有無も不明だった。  隆は愕然とした。  argusの真の狙いは、これだったのか。 (世界中が注目するエアショーで、F36ライトニングを墜落させること。しかも四菱重工の自衛隊落札が決定した後に。これが、argusの本当の狙いだったのか……)  隆は、四菱重工名古屋の航空宇宙システム製作所が、およそ一年半前に、C&Cサーバーと不正な通信を行なっていた痕跡を検出していた。  つまり今回の事故は、すでに一年半前から計画されていたことになる。  そして、おそらく、そのための隠れ蓑がクレイオスの事故だった。  隆の中で全てのピースがはまり、ようやく一枚の絵が完成した。  が、時すでに遅く、argusとレイセオンが仕組んだ陰謀は計画通りに遂行され、そして完了した。  端緒を掴んでいながら阻止できなかったことに隆が拳を握りしめ、慚愧(ざんき)の念に歯噛みしていた頃、argusの口座に報奨金の全額が振り込まれた。  その額は日本円換算で、およそ二十億円だった。
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