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週が明けた月曜日。
市ヶ谷の防衛省本省で緊急会議が開催され、四菱重工のF36落札取り消し、及び、次点のレイセオンインダストリーズの繰り上げ落札が決議された。
F36ライトニングの爆発の原因は不明だったが、四菱自動車のクレイオスに続く大事故で、四菱ブランドのイメージは、F36の後を追うように地に堕ちた。
※※※
水曜日の夜遅い時間、赤坂の料亭Aに、与党代議士森川の秘書林田、新道組の事務長大川、レイセオンの極東地区GMナタリー・フェルドマン、そして、大阪府警OBの梶原が、一堂に会していた。
大川と林田以外は初対面だ。
林田が面通しをし挨拶を済ませた。
「レイセオンのF36落札に乾杯!」
「乾杯!」
「ありがとうございます。皆様のおかげです」
ユダヤ系アメリカ人のナタリーが、流暢な日本語で礼を述べる。
「しかしミス・ナタリー。その若さでレイセオンの極東支社長とは、大変な才女ですな。まさに、才色兼備だ」
大川は、ねぶるような嫌らしい眼付きで、ナタリーのブロンドの髪から豊満な胸に眼を這わせる。
「事務長、ミス・ナタリーは、ハーバード大学でMBAを取得して、しかも首席で卒業です。舌を巻くほどの才女ですよ」
「いえ、私ごときはまだまだです。ぜひ皆様から色々と、ご教授いただきたいものです」
ナタリーが大川に向かいお辞儀をすると、スーツのブラウスの隙間から胸元が見え、大川は目の保養とばかりに一杯煽った。
「ところで大川事務長、お怪我の具合は大丈夫ですか?」
「林田さん、ご心配をお掛けしました。見ての通り心配はご無用です」
一週間前大川は、英二に完膚無きまでに叩きのめされたが、驚異的な回復力で会合に参加していた。
後日柴崎から、英二がオレオレ詐欺を妨害した男だと聞き、大川は伊吹英二という名前を脳裏に刻み込んだ。
「しかしこれでいよいよ、IR事業に邁進出来ますな」
「ウチの先生も、事務長を始め皆さんには、大変感謝申し上げております」
「事務長、大阪の新会社はいつから?」
「まもなく登記も完了するので、十月一日ですかな。森川先生とのコンサル契約も、その日付でお願いします」
「承知しました。梶原顧問も、関西の組織の牽制、何卒よろしくお願いします」
「こちらこそ」
近い将来の莫大なIR利権に気を良くした四人は、深夜遅くまで杯を重ねた。
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