ギャンブル

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 男が恋人に向かって金をせびっている。   「頼むよ!今日は絶対出るんだよ!あの馬はキテる!今日を逃せばこんなチャンス二度とないよ!」   「前もそんなこと言って、結局9万スってきたじゃん」   「今回は違うよ!今までとは比にならないビッグチャンスなんだ!1万だけでいいから!お願いします!」   「うーん、1万円だけだよ?ちゃんと返してね」    女は男に万札を手渡した。    そして、男はそれを受け取るや否や   「ありがとう!それじゃあ行ってくるね」    男は神馬の如く駆け出していった。   「はぁ。何やってんだろ私。お金が返ってくるわけないのに。また渡しちゃったよ」    自分の不甲斐なさに落胆しつつ、女は準備を整え、仕事へと向かった。    20時ごろ、いつものように女が帰宅すると、リビングには男が神妙な面持ちで座っていた。    競馬で勝つと、男は決まってどこかで呑んでから帰ってくる。    こんなに早い時間帯から家に居る、つまり男は競馬で負けたということだ。    それを察した女はため息をついた。   「ほら、また負けた。だから言ったのに」   「いや、負けてない」   「だったらどうしてこんなにも帰ってくるのが早いのかな」   「それは他に理由があって...」   「理由?競馬で負けて帰ってきた、これ以外にあなたが現在ここに鎮座していることを説明できる理由なんてあるの?」   「そもそも俺は今日、競馬に行ってないよ」    そう言うと男は、ポケットから箱を取り出した。   「え、何それ?」   「プレゼントだよ。受け取って」    男から手渡された箱を開けると、その中には女が前から所望していた、10万円ほどするネックレスが入っていた。   「このネックレス私にくれるの?」   「日頃の感謝を伝えようと思って、買って来たんだ」   「ありがとう!」    女は嬉々として、そのネックレスを身につけて、鏡の前に立つ。    そして鏡越しに男を見ながら、   「ごめんね、さっきは。競馬に行って負けたと思っちゃって。私のためにプレゼント用意してくれてたんだね」   「大丈夫だよ。サプライズ、成功したみたいだし」   「ありがとう!大好き!」    
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