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五年生の終わりにかけて、杏はトーマスと距離を置くことを試みはじめた。
バディとして最低限の接触はしたけれど、放課後は控える。そんなかんじだ。
慣れなければならない。
近い将来、自分とトーマスはバディどころか、学友ですらなくなるのだ。
当然、学友たちは不思議がった。
「もしかして、ついにトーマスになにかされたの?」
「なにかって、なによ」
「なには、なによ」
蠱惑的に微笑まれ、杏は顔を赤くして首を振る。
「そういう関係じゃないんだってば。だってトムには相手がいるんでしょう?」
「うっそ、ほんと? キョウのこと弄んだのね、あのクソ野郎」
「真面目ぶってひどい男」
許すまじと息巻く友人たちは、入学した当時、黒い髪の自分を見てひそひそ笑っていた少女たち。変化を嬉しく思うし、杏の努力は決して無駄ではなかったのだという証拠だ。
以前はパーティーへの誘いがかかったものだが、断っているうちに飽きたのだろう。杏に声をかけてくる男子はひとりもいなくなった。彼らは別の女子を伴って会場へ足を運んでいる。
熱心に誘っていた男子と久しぶりに顔を合わせた際、ひどく引きつった顔をしていた。おまけに逃げるように去っていったものだから、隣にいる相棒の顔が見られなかった。だってトーマスは、彼らが自分に声をかけていた過去を知っている。憐れな杏を慰めもしないところは、寡黙な彼らしいといえるかもしれない。
――だけどさ、私にだって憧れぐらいはあるのよね。
パーティの中でも特別といえる卒業のダンスパーティーは、外部の客も招くことが可能だ。ステディな相手がいるひとは、招待することができるお披露目の場。控室にパートナーが迎えにやってくるのは、女子憧れのシチュエーションである。
しかしこのままでは、あぶれた女子たちで徒党を組んで、お菓子を堪能する未来しかないだろう。
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