緑の庭で約束を

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「キョウ、また喧嘩をしたの?」 「失礼ねマリー。私は正当な要求をしたまでよ」 「キョウの正義は細剣(レイピア)のように鋭いもの。お坊ちゃまたちは歯が立たないと思うわ」  朗らかに笑っているのは、美しい金髪が波打つルームメイト。異国にあって気を許せる大切な友人だ。  歴史と伝統のある学校(スクール)ということもあってか、ここには名家の子息令嬢が多い。男にとっては社会に出たときに箔となり、女にとっても身の保証となるそんな場所。  マリーもそこそこお金持ちのお嬢様だが、父親が苦労のうえで事業を成功させたらしく、威張ったところのない明るい性格の女の子。杏はそんな彼女を気に入っている。 「なにをそんなにイライラしてるのよ」 「イライラしてるように見える?」 「とっても」 「……それは不覚ね」  寮のティールームに場所を移し、紅茶を淹れたところで問われ、杏は口を尖らせた。思ったことを顔に出しすぎるのが欠点だと自覚している。  自分の精神が不調な理由は、もうすぐ始まる制度が原因だろう。  入学して二年も経てば、体力や学力の面で各人に差が生まれ始める。  どんなに仲のよい友人同士であったとしても、成績に差があってはこれから先もずっと同じように付き合っていけるとは限らなくなる。  だから、釣り合った者同士で切磋琢磨していこう。  そんな理由で作られたのが、三年生から開始される『相棒(バディ)制度(システム)』である。  言わんとすることはわかる。学力差で進学先が分かれ、周囲の人間関係が変化していくのは自然の成り行きだ。  だが、それを学校側が宣言して、手をまわすのは違うのではないだろうか。  校則に口を出すつもりはないけれど、一方的に決められてしまう杏の相手が問題だ。
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