緑の庭で約束を

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「いいじゃない。どうせ学年ごとに変わるんだし。初めてのバディがトーマス・キングズレーだなんて、羨望の的よ」 「憐みじゃないの? もしくは感謝。あの堅物を引き取ってくれて、ありがとうっていう」 「嬉しいくせに」  さらりと言われ、ドキリとする。思わず跳ねてしまった肩はしっかりと見られていたようで、マリーの手が杏の右肩を撫でた。 「だーい好きなトムと一年間一緒よ、眺めていても咎められることはないわ。だってバディだもの」 「……マリー」 「キョウってばほんと可愛いわね。普段はとっても勇ましいのに、恋の話になると途端に女の子になるんだもの。男たちは見る目がないわ」 「仕方がないわ。私は外国から来た留学生。異質な存在よ」 「そこも含めてあなたの魅力よ」  豪語するマリーは、とても綺麗だと杏は思う。  壁面に掛けられている身だしなみ用の鏡に映っているのは、真っ黒い髪を肩の上で揺らしている異邦人だ。入学式は針の(むしろ)だった。  杏だっておとなしくしているつもりだった。幸いにして、見たかぎりではおしとやかな少女である。欧州の人間とは異なる小柄な体格もあって、か弱く見えていたことだろう。  その小さな身体に詰まっているのはとんでもない負けん気であることは半年ほどで露見し、杏は別の意味で有名になる。口の悪い男子に堂々と意見をする彼女を、少女たちは憧れのまなざしで見るようになった。  べつに男の子たちにも受け入れられたい、などと思っているわけではない。故郷にいるときから、お転婆の杏はそういった対象からは外れていたし、なにしろ杏の初恋はあの天使である。  入学してすぐ再会するとは思っていなかったし、成長して理知的な雰囲気を身に着けた少年は、数年で背を伸ばしてさらに素敵になった。今後が楽しみである。  そう。楽しめばいいのだろう。だってこれは杏の意思ではなく、教師による采配なのだから。
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