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トーマスと付き合っているのかと問われることも増えた。
五年生でも相棒の継続をすでに告げられている。連続でコンビを組むのだ。誤解するだろう。
トーマスが級長として皆を引っ張っているように、杏はいつしか女子代表のような存在になっている。
クラスの問題ごと、学校に対する陳情、自身の勉強のことなど、あらゆることを話し合う仲になれた。時間が足りなくて、授業が終わったあとや休みの日にも顔を合わせることも増えている。
生徒同士の逢引場所には、寮ごとに設けられている庭園が使われることが多い。
杏が暮らすクレオパトラ寮にある薔薇園は女子人気が高いが、好みではない。あまりにも緑が少なすぎるのだ。杏は新緑を愛している。
だからいつも、トーマスが暮らすファントム寮の庭園に赴いた。田舎育ちの杏にとって、木々や草花に溢れたそこは気持ちが落ち着くのだ。
杏が行くと、トーマスはいつも不機嫌そうな顔をして、なるべく人目につかない場所に押し込まれた。
堅物級長はからわれるのが苦手なのかしらと思っていた杏だが、別クラスの男子生徒に声をかけられ、その事実を知る。
トーマス・キングズレーには、幼いころから心に決めている相手がいるらしい、と。
「だからキングズレーのことは諦めて、俺と――」
「べつに、私たちはそういう関係ではないのよ。だってほら、私は」
私は異邦人だから。
だから、いずれ国に帰らなければならない。
長じるにつれて増える話題。将来の話。
仕事、結婚。
どちらの伝手も、杏は持っていない。
卒業までには地固めもできると思っていた自分は、とんだ甘ちゃんだったと思い知る。外国へやってきて五年経ったが、しょせんは学生なのだ。
遊学のためにいる子ども。
周囲の大人はそう思っている。数が増えてきたとはいえ、まだ珍しい東洋人を雇ってくれるような変わり者は、簡単には見つからない。
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