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遠山杏が初めてトーマス・キングズレーに会ったのは、寄宿学校の入学式よりも前のことだ。杏の祖父には三井という貿易商の知人がおり、その客が連れていた子どもが彼だった。
同い年だという六歳の少年は、まるで絵本に出てくる天使のようで目を見張った。
肌は白く瞳は青い。金色の髪が真夏の太陽の下でキラキラ輝く。
日焼けした健康優良児の自分とはなにもかもが違っていて、杏はなんだか恥ずかしくなったものだ。
滞在中の一ケ月、少年の相手役を務めることとなる。
宿泊先の異人館にある美しい英国風の庭はまるで夢の世界のよう。拙い英語力に悔し涙を流し、もっと彼と会話がしたいと強く思った。
大きくなったらまた会おう。
子ども同士の小さな約束。
頬へのキスは挨拶だとしても、杏にとって鮮烈な記憶となった。
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