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ひきこもりか
起きると夜だった。
ドアがノックされ、カタンと音が鳴る。
階段を下りていく足音が無くなるのを確認し、俊介がそっとドアを開けると、足元に、カレーののったお盆が置いてあった。
お盆ごと部屋に持ち込みおいしいかどうかもわからないカレーを胃袋に流し込んだ。
つけっぱなしの画面に戦隊モノが流れてくる。
目の前に地球の危機を救ってほしいと、普通の人には使えない変身ベルトを渡される。
チッと舌打ちをして俊介はチャンネルを変えた。
―― 昔はバカみたいにヒーローとか憧れたよな。
人のために命までかけられる純粋な正義の味方ばかりを教えられ見せられてきた幼少期、正義の味方に選ばれる、あの特別感と使命感に憧れた。
―― あんなのただの刷り込みだ。
現実はどうだ。
節々で自分が特別ではないという現実をつきつけられる。
幼い頃に見た正義の味方のようなことをする人間なんてのも見かけたこともない。
そんなことをしても、この世の中、その後の保障もないのに自身を危険にさらすことにしかならない。
リスクが高いだけで、リターンといえば、一瞬の自己満足くらいだ。
下手をすると感謝すらされず、周りから奇異の目で見られる可能性の方が高い。
いじめを取り巻く環境がそのことをよく表している。
学生の頃、いじめという行為を見せつけられて不快感にイライラしていた俊介は、いじめられている子の持ち物を、いじめっ子達がめちゃくちゃにしているのをクラスメイトが見ている中、止めた。
一人が止めに入ったら、傍観者のクラスメイトはそれにのっかって、全員でいじめグループを止められるという思惑もあっての行為だった。
ファーストペンギンさえいれば、皆正義を遂行したいものだと思い込んでいた。
実際には、俊介に追随したクラスメイトは誰一人いなかった。
むしろ俊介の行為をみたクラスメイト達は、ヒソヒソと友達どおし話はじめたのである。
「ありえない。」
「よくやるよね。」
「何?偽善者?」
かすかに聞こえてくる声は辛辣だった。
いじめっ子グループは、俊介の行為に一瞬呆気にとられたように静止したが、すぐに奪い取られた持ち物を奪い返し、俊介の行為などなかったかのように、続きをはじめた。
いじめられることはなかったが、一度奇異の目で見られた俊介に話しかけてくるクラスメイトはいなくなった。
いじめられっこも、俊介の行為に感謝を伝えてくることもなかった。
行為はただの空回りだったのである。
この出来事は、俊介が人間関係を煩わしく思うようになったきっかけであり、それ以降、できる限りの人間関係を避けるようになった。
そんなことを考えていたら、ドアをノックする音が聞こえた。
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