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おんな、おとこ、ではない。
化生の美しさだ。
市川は一時、見惚れた。
そして、瞬時に諦めた。
(これには、勝てぬ)
そこでがしゃり、と刀を放り出して、「許してくれ」と乞うた。
「済まぬ……お許し下され……私はお前を殺したくはなかったが、故郷くにの者共が「仇討ちせねば、居場所はない」という物だから仕方なしに……」
「なんと義兄様(あにさま)、情けない事を申される」
「本当のことだ、本当だ。お前様に私が勝てるとお思いか。ああ、お前様が憎くないとは言わぬが……なぜ」
「なぜ?」
すっ、と馬杉の瞳が細くなる。
きっと市川は己がこのまま死ぬのだと悟った。ぶすり、と血脈の辺りを刺されて、死ぬ。
だから本音を言おうと思った。
「何故、父まで殺したのだ……お前様が千鶴や自分のお父様を殺すのは致し方なし。だが、なぜ我が父まで手にかけた……おかげで俺は、俺は……国におれんようになった、お前様を殺さねば、仇討ちせねばと連日言われ、剣の腕もないのにお前様を探して三年……ああ、口惜しい。無駄な三年をお前様に捧げて、今日、今まさに犬死にする俺が哀れでならん……なぜ……なぜお前は俺の父まで殺した……それを聞かねば死ぬに死に切れん……」
そんな事を涙声で言えば、馬杉は一時、目を丸くして市川の情けない告白を聞いていたが、次第に笑い顔になっていった。そして、何の気まぐれか。
馬杉も刀を鞘に納めてしまったのだ。
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