幼なじみ

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「別に陽向が悪いわけじゃないんだから、謝る必要ないよ。オレもすぐに気がつくべきだったんだ。香りはするのにフェロモンを感じない理由に」 「それは僕がフレグランスを見せたから」 そう思ってもらおうとしたのは僕だ。 「だけどそれに気づくのがアルファだろ?オレ、そういうところの詰めが甘くて、結局受かったのも普通コースだし」 「?」 「オレ、入試の日に風邪引いて熱出したんだよ。結構熱高く出ちゃって別室で試験受けたんだけど、頭が朦朧として半分も出来なくて、結局特進落ちたんだ」 入試の前の日、実は数年ぶりに大雪が降ったのだ。僕達は次の日の交通機関が不安だったくらいで、家で大人しくしていたんだけど、飛鳥は入試が余裕だったこともあって友達と雪で遊んでいたらしい。そしてみんな仲良く熱を出したとのこと。ちなみにその友達はみんな公立狙いで試験はまだ先だった。 「オレ、正直いって特進でもかなり余裕だったんだよね。だから少しくらい遊んでも・・・なんて思ってこのザマだ。本当は結構腐っててさ、入学式もすごく億劫だったんだけど、そこに陽向がいて」 そう言ってコーヒーを一口飲んだ。 「陽向がいたからオレ、学校に来れたんだ。じゃなかったら入学式で学校辞めてたと思う」 いつも笑って、お気楽にすら見えて、友達に囲まれてた飛鳥がそんなこと思ってたなんて、想像もしてなかった。 アルファにしては珍しく親しみやすくて楽しい人だと思ったら、やっぱり普通コースにいることは辛かったんだ。 「本当は朝イチから陽向に声かけて、ずっと話していたかったんだけど、実はそんな余裕もなくて、適当に理由つけて昼しか話しかけられない臆病者なんだ。だけど、昼だけでも陽向と話せることがうれしくて、毎日学校来てた」 そんな飛鳥の話を聞けば聞くほど、僕は申し訳なさでいっぱいになる。 「ごめんね」 「いやいや、陽向に感謝してるって話だから。むしろオレは陽向にお礼が言いたいんだ。陽向のおかげで学校やめずに済んだ。ありがとう」 入学式の次の日、僕を求めて登校して来た飛鳥は僕の欠席にがっかりする。そしてまた次の日も僕に会いに登校して、いなくて、また次の日も・・・と学校に来るうちに、いつの間にか友達が出来ていたのだという。 「陽向がいなくてがっかりした日がいつの間にか、がっかりしたけど楽しかった日に変わっていたんだ」 そう言ってにこっと笑った。
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