幼なじみ

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僕の両親は共にアルファで共働きの研究員だ。 部署は違うけど同じ会社に務めている。 そして母の親友夫婦はアルファとオメガ。共に会社員をしている。 僕の両親は仕事で早く帰って来れない。 親友夫婦は定期的にくる発情期を避けられない。 そんな2組の夫婦が同時期に妊娠した時、お互い助け合って子育てをしようと決めたのだった。 元々母親同士は親友。ツーカーの関係だ。 2人は意気揚々と新居を探し、新興住宅地に隣同士で家を購入。そして、生まれてきた子供を共に育てることにしたのだ。 毎日の残業が避けられない母は子供を夜まで隣に預け、隣が発情期の時は丸々その間子供を預かる。 そうして僕と隣の子は、犬っころのように一緒に育てられることになった。 いつでもどこでも一緒にいるのが当たり前。 朝学校に行く時から夜家に帰るまで、一日の大半を共に過ごす。 それは本当に同じ歳の兄弟の様だった。 だからそんな関係が変わることになるなんて、僕は想像もしてなかった。 あれは5年生のときだった。 いつものように学校から一緒に隣に帰ってきて宿題をしていた時、不意にあいつ・・・(あきら)が言った。 『キスしよう』 あまりに突拍子も無い言葉に、何を言っているのか分からず、やっていた計算スキルから顔を上げて暁を見た。 『キスしよう。陽向(ひなた)』 こちらをじっと見る暁の真剣な目。 『キスってあのキス?』 僕はそっと自分の唇を触る。 『そう。そのキス。ヒナとしたい』 そう言ってソファの前のローテーブルで並んで宿題をしていた暁は、覆い被さるように僕を後ろのソファに押し付けて唇を近づけてきた。 なんで急にそんなこと・・・? あまりに突然で固まってしまった僕は、そのまま目閉じることも出来ずに近づいてくる暁の目を見ていた。 暁も目を閉じずにじっと僕の目を見る。 そして・・・。 ちゅ。 そのまま、お互いに見つめあったまま唇が軽く触れると、暁はすぐに唇を離し、また元の位置に戻った。 わけも分からず呆然とそのまま動けない僕の隣で、暁が再び宿題を始めた音がする。 紙の上を滑る鉛筆の音。 それをそっと横目で見て、僕も宿題の続きを始めた。 なんだったの・・・? いま・・・キスしたよね? だけど何事も無かったように 普通に宿題をする暁に何も言えなかった。 いつもと同じいつもの風景。 なんにもない日常のはずなのに、僕の胸だけがドキドキと高鳴っていた。 だけど、このなんにもない日常がこの日を境に変化していくことになったのだ。
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