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この早い鼓動に、僕は飛鳥への思いを恋だと思った。だけど、暁への思いを自覚した今なら分かる。このどきどきは飛鳥のものだ。
飛鳥は僕がベータだと思っていたからアルファの力を抑えなかった。でも本当はオメガだから、僕はその飛鳥の思いにあてられてしまったのだ。
僕を好きでいてくれた飛鳥は、平気な顔して本当は緊張していたんだ。教室に入ると首の後ろがちりちりするのも、飛鳥が僕のことを思いを込めて見ていたから。僕に向いた飛鳥の真剣な思いを、僕が感じ取ってしまったのだ。
飛鳥は僕の傍にいる時に、あんなにどきどきしてたんだ。
こんな真剣に思いを向けてくれてたのに、僕は無駄に期待させてしまった。
それを思うと、僕は少し胸が痛くなった。
本当に僕は自分の思いにも誰かの思いにも疎すぎる。
そんなことを思いながら、午前の授業が終わった。
「今日はいつもの外じゃなくて、ちょっと場所を変えたいんだけどいいかな?」
お昼になって僕のところに来てくれた飛鳥を、いつもと違うところに連れていく。
「医務室?」
そのドアの前まで来て、飛鳥が不思議そうに言った。そうだよね。お昼食べるのに医務室はないよね。でも、暁に2人で会うのはダメだって言われてるから・・・。
僕は飛鳥に笑うと、ドアをノックして開けた。
「京兄、ごはん食べていい?」
特に今日行くことは言ってなかったけど、京兄は普通に迎えてくれた。
「ヒナ?発情期お疲れさん。木村くんもいらっしゃい」
「あ・・・失礼します」
「遠慮しないで入って。君も大変だったね。番持ちのオメガに手を出して旦那に叱られたアルファくん」
ちょっとからかいを含んだその言葉に、飛鳥は表情を固くして、僕はぎょっとなった。
「なに・・・それ?」
「先週ヒナが発情期になった時、旦那がここに連れてきただろ?その時木村くんも一緒にここに来てたんだ」
そうだっけ・・・?実はあまり覚えてないけど、そうだったような気もする。
「で、ここまで来る間に結構目撃されてて、あれからすごい噂になったんだよ」
噂?
「噂のアルファが誰かを抱えて走る姿も衝撃だけど、その時凄く威圧を発してたからそれを感じられるアルファとオメガはすぐに事情を察したわけ。あれはどう見ても発情したオメガを守ってるってね。だけど、そのオメガからはフェロモンは出てない、ということは・・・」
僕が番持ちのオメガで、そのオメガを周囲を威嚇しながら運んでいるアルファ・・・すなわち二人は番。
「その後ろを飛鳥くんが追いかけてきてたから、当然暁くんの威嚇の矛先は彼だと思うだろ?」
だから『番持ちのオメガに手を出したアルファ』なのか・・・。
え?
それずっと噂になってたの?
僕はびっくりして飛鳥を見た。
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