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飛鳥は僕から視線を外す。
「でも木村くん、そんな噂の渦中にいながら堂々と登校して沈黙を守ったんだよ。そんな男前の木村くんに、オレからプレゼント」
そう言って京兄はペットボトルのスポーツドリンクを飛鳥に渡した。
「・・・ありがとうございます」
戸惑いながらも受け取る飛鳥。
「まあそれは教室で飲んで、今はコーヒー入れてあげるからこっち来て座りな」
そう言ってコーヒーをテーブルに置いてくれた。
「いこ」
それを見て僕は飛鳥を促して椅子に座った。
相変わらず僕にはミルクたっぷり甘々コーヒー牛乳。それをありがたく一口いただいて、僕はバッグからお弁当を出した。
「今日は京兄にも作ってきたんだ。食べて」
京兄はいつも学食だ。だけど今日はここを使わせてもらうお礼も兼ねて作ってきました。
「お、ヒナが作ったのか?あのおちびちゃんのヒナがこんな事もできるようになったんだな」
京兄はしみじみそう言うと、僕のお弁当を受け取ってくれた。
「ちゃんと生活できてるみたいで安心したよ。じゃあ、オレはあっちで壁に徹してるから、気にせずお2人でどうぞ」
そう言ってひらひらと手を振ると、カーテンの向こう側に消えていった。
「あのね、京兄は僕のいとこなんだ。母方のだから名字が違うんだけど・・・」
今更になってしまったけれど、僕は京兄との関係を説明して、バッグからお弁当をもうひとつ取り出した。
「それでね、飛鳥はいつもパンなの知ってるんだけど、飛鳥の分も作ってきたから食べて欲しいんだ・・・」
これも思わせぶりな行動になってしまうと思ったんだけど、散々迷惑かけたことに対して、何かお詫びをしたかったのだ。
「今までのお詫び。僕、飛鳥に酷いことした」
そう言って目をふせた僕の視界からお弁当が消えた。
「別に酷いことはされてないけど、これはありがたくいただくよ。ありがとう」
そう言ってお弁当を開いて食べ始めてくれる。
それを見て僕も自分のお弁当を開いた。
飛鳥の優しさに、目が潤んでくる。
「うまい。やっぱり陽向は料理が上手だね」
「ありがとう」
僕達はしばらく黙ってお弁当を食べた。
お弁当箱は暁と同じ大きさのかなり大きいサイズだったけど、やっぱり足りなかったのか飛鳥は買ってきていたパンも食べ始めた。
暁もお弁当足りてないのかな?
と思いながら、僕は僕達の事情を話した。
僕と暁が番である事。
それを隠すためにベータと言っていたこと。
そして、僕は暁が好きなこと。
「思わせぶりなことしちゃってごめんね」
僕は最後に素直に謝って、頭を下げた。
なのに飛鳥は慌てて否定した。
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