友の願い

10/14
前へ
/14ページ
次へ
 不老不死ウイルスが世界を震撼させた日から一年後。良くも悪くも世界に大きな影響を与えた大和には、懲役三十年という判決が下された。  その判決に世間は、納得する者としない者で分かれた。  無罪にすべきだとか、もっと重くすべきだとか様々な意見が飛び交っていた。  不老不死否定派のために治療薬を作ろうとした医師がいたが、一年経ってもこのウイルスに対する治療薬は未だ完成していない。  大和も治療薬を作るよう国から命じられたらしいが、同様に完成の目処が立っていない。  二年が経つと、世界中のほとんどの人が不老不死ウイルスにかかり、不老不死ウイルスの症状の特徴から、医療機関や飲食関係の企業は廃業になる可能性が高いと言われていた。  ただ、飲食業に関しては味覚が鈍くなろうが味を楽しみたいとか、食感を楽しみたいという客が多少はいるため、なんとか生き残れる可能性もあるのではという意見も出されていた。  一年後。医療機関や飲食業の度重なる廃業により、多くの失業者が生み出される。政府は失業者への支援プログラムを立ち上げた。  五年後。不老不死ウイルスの治療薬は未だ誰も完成させることが出来ず、研究費の高さから薬の開発を断念せざるを得なくなってしまった。  不老不死ウイルス発生から三十年。ついに大和が刑務所を出所し、俺達は再会を果たした。  大和の見た目は三十年前と全く変わっておらず、不老不死であることをまざまざと実感させられる。そう言う俺の見た目も三十年前と全く変わっていない。  家に招いて話をする中で、大和は「刑務所生活は気が遠くなる程に長かった」と口にした。  いくら不老不死になったと言っても、大和はまだ五十七歳。時間の流れの早さを実感するのはまだまだ先の話なのだろう。それとも、辛い時間はいくら長く生きていても長く感じるものなんだろうか。  これから先どうするかと尋ねると、「本当の意味で人の役に立つことをしたい」と彼は言った。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加