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そうして勤労に励んだ連休も残りは今日と明日だけになり、
店の前の大通りもこの夏を最後まで満喫しようとラストスパートをかけている人々で溢れかえっていた。
自ら望んで入れたこのシフトに後悔はないが、さすがに連日の疲れが溜まっているのを感じる。
今朝は起きた後もしばらく身体から眠気が全く抜けなかったし、鏡に映る自分は思わずぎょっとするような顔色だった。
これでは接客業は勤まらないと思い、普段より厚化粧をしてホールへと向かったはいいが、誤魔化せるのは外見だけで、注文を間違えたりレジ打ちで今までやったことのないようなミスも連発し、いよいよ笑顔を保つのも難しくなってきた。
ため息をつく。今目の前に布団があれば一日中だって眠れるだろう。
ふんわりとしたパンケーキと生クリームが布団に見えてくる。
残り二日の間、せめて弁償が絡むミスは避けたい。
なけなしのお金は我が子も同然である。
こんなことを天に祈っても仕方ない。
それでも私は祈らずにいられない。
そんな疲労困憊な昼下がりのことだった。
黒い雲が空を覆い、ぽつりぽつりという雨音が聞こえてくる。
その音は瞬く間に蝉の声をかき消し、バケツをひっくり返したような雨が街に降り注ぐ。
大通りにいた人々は蜘蛛の子を散らすように雨宿りの場所を探して動き出した。
これはまずい。思わず眉間にしわが寄る。
それもそのはず、この喫茶店は格好の避難所なのだ。
先ほど天に祈ったことも虚しく、その天のいたずらによってこれからここはさらなる戦場となる。
嘆くのは後だ。
疲労の溜まった脳を無理矢理回して、今しなくてはならないことを考える。
多くの人がなだれ込んでくることに備えて、席をなるべく開けなくてはならない。
まだ片付いていないテーブルに急いで向かう、その時だった。
激しい雨の音と店内の喧噪を貫いて、外から大きな泣き声が聞こえる。
赤ん坊の泣き声か、それとも動物の鳴き声なのか。
窓の外に目を向けると空っぽの大通りで小さな少女が空に向かって大きな口を開けて泣いていた。
近くに親がいる様子もない。迷子なのだろうか。
さすがに誰かが声をかけるかと思ったが、驚いたことに周りの大人たちは少女に見向きもしない。
自分の身体を拭いて、スマートフォンと暗い空を交互に見つめていた。
なんということだ。
晴れているときなら私も誰かが何とかしてくれると考えてしまうだろう。
しかし少女が一人雨に打たれ続けながら涙を流している姿はあまりにも痛々しい。
風の轟音が窓を揺らす。少女の泣き声は止まない。
こらえきれなかった。
私は仕事もそっちのけにして夕立が続く外へ駆け出した。
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