薄墨色の記憶

書道教室３

　母親は眉毛を寄せ、不安げに言った。そしてこの話題には二度と触れなかった。

　春になり、ショーイチちゃんがテレビに出ることになったと聞いた。
　NHKの生放送の歌番組だ。なんとショーイチちゃんは有名俳優の父親だったのだ。
　自慢してもいい事なのに、どうして今まで黙っていたのか。大事なことは言わないタイプの人なのだろうか。
　その俳優は現在、大河ドラマに準主役として出演している。ハンサムではないが、３０代の俳優で最も個性的と言われている。
　その番組で『父の日特集』をやるらしい。父の日に合わせて、大河ドラマに出演中の俳優とその父親をゲストに迎えて親子エピソードを語り、二人で歌を唄う企画だ。
　ショーイチちゃんはとても嬉しそうに何度も聞かせてくれた。
　先生も私も一緒になって喜んだ。
　そして３人でショーイチちゃんのテレビ出演用の一張羅をデパートに買いに出掛け、レストランに行って前祝をした。

　ショーイチちゃんが東京に行く前の週の水曜日、いつものごとく本を読んでもらう。