書道教室4

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書道教室4

 今日は宮沢賢治の詩集だった。詩集は文机の上に置いてあった。  文机には、どす黒いほど赤い牡丹の花が一輪挿してあったが、珍しくしぼんで枯れかけていた。  私は詩集を手に取って渡しながら、胡坐の真ん中に座る。  ショーイチちゃんが朗読する息が首に当たってくすぐったくて、何度かクスクス笑った。  『永訣の朝』を読み終わると、ショーイチちゃんは私の首筋に口を這わせた。全身がピクッとなり、体を硬くした。そのままの沈黙が続いた。 「私、帰る……」    スクッと立ち上がり書道の道具が入ったバッグを持つと、ショーイチちゃんは私の右手首を掴んで、動きを止めた。 「待って。いつもの。忘れている」例のきな粉飴を、右手の指先でつまんで顔の前に差し出してきた。    私は怖くて迷ったけど決心して、ショーイチちゃんの右指と親指を咥えて、舌でからめとる様にきな粉飴を口で受けとった。  ショーイチちゃんは私の目を見つめて、私の唾液の付いた自分の指を舐めた。 私たちの目は異常な程にぎらついていたと思う。
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