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33年後1
蒸し暑い夜だ。昔はエアコンなんて持っていなくて使えなかったが、さすがにもう無理だ。エアコンは24時間のフル稼働が常識になりつつある。
私は子供たちが寝た後に本棚からあの宮沢賢治の詩集を取り出した。
古い本だから丁寧に両手で扱う。手に入れた時よりの変色した表紙をジッと見つめながら、ショーイチちゃんに口づけされた首筋に手を置いた。
あの感触、部屋、新鮮な墨の匂い、萎れた牡丹、窓から差し込む光、たくさんの事を遠い記憶から引っ張り出す。
まだショーイチちゃんが生きていたら、95歳になる。私の50歳上だ。
ほんのいたずらだった。
近所の大人達が「ショーイチちゃんと先生はできていて、やっと行かず後家の先生にも遅すぎる春が来た」と下衆な話題にしていた。大人達の下卑た笑い、2人を馬鹿にしている雰囲気に、私も真面目で面白味のない先生を少しからかってやろうと考えた。
水曜日にお稽古でショーイチちゃんを独占できるようになってから、わざと胸が当たる様に腕にしがみついたり、下着が見えるように座ったりした。
ショーイチちゃんはすぐに私の事を『オンナ』として見るようになった。
私たちの姿を先生が覗いていることも気付いていた。私は羞恥心が少ない子供を装い、大人では出来ないような大胆なこともした。
大人2人を手玉に取るっているようで楽しかった、最高に面白かった。
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