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オシュウジとショドウ
教室は家から歩いて10分位のところにあった。佐藤さんという家の離れのプレハブ小屋だった。プレハブ小屋からは子供の騒ぐ音が漏れ聞こえる。
お母さんは断りなくプレハブ小屋の安っぽい引き戸を開けて
「こんにちは。午前中にお電話した酒井です」と声を張った。
「はーい」と言いながら女性が近寄ってきた。
「これが娘のたつ子です。ほら、たつ子、ご挨拶して」
お母さんに背中を押されて、その女性の前に立たされる。女性は、長い黒い髪を横で一つに結わえ、ミントグリーンのやわらかそうな素材の花柄ワンピースを身に着けていた。お母さんより年上かな? と思う。
「さ さ 酒井 た た た たつこです」
初めての人に初めての場所で緊張は最高潮だった。
「初めまして。たつこちゃん。今日は来てくれてありがとうね。お習字に興味があるの?」
オシュウジ? 何のことだ? ショドウではないのか?
「オシュウジ?」
お母さんの顔を見つめる。オシュウジについての説明を求める顔をした。
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