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東京大空襲1
東京大空襲の話は毎回ほとんど同じ語り口だった。
「戦争中、夜になると空襲警報が聞こえた。俺の住んでいた場所は東京都心から少し離れ場所だったけど、爆撃の様子は分かった。爆撃があった後に、自転車でそこに行く。そうすると面白いものを見ることができた」
「面白いもの?」
私たちはそんな惨劇に面白い事なんてあるわけないと分かっていた。顔を歪ませて話の続きを聞いた。
「焼夷弾の爆撃にあった奴らは全身火傷だらけで、水を求めて歩き回るんだ。それで爆撃で干上がって、残った水も煮えあがったような川に着く。そこで熱くなった水を飲んで息を引き取るんだ。川にはたくさんの死体があった。」
冷たい水を求めてさまよって、たどり着いた川の水が熱湯だった。亡くなった方たちは冷たい水を飲みたかっただろうに。ひどい。
「それで夜になると川が青白く燃えるんだ」
「燃える?なんで?」かよちゃんが聞いた。
「人間の体には黄リンってのが含まれていて、川の水と死体から溶け出た黄リンが反応して燃えるんだ。それがすごく綺麗でいろんな川に何度も見に行ったよ」
そう言って、一笑した。
聞いていた私たちは口々に「ショーイチちゃん、マジ屑人間」だの「人としてゴミだ」と罵った。
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