1.愛が、くすむ。

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1.愛が、くすむ。

あんなに泣き叫んでも、みっともなくすがってもどうにもならないことを、知った。 私は分かっていたし、彼も分かっていた。時間とともに愛は散り散りになり芽生えたのはただの情だった。思えば結婚しようとなったのも、世間体とか周りの人間の言葉とか家族からの圧力とか。 不思議とプロポーズされた時のことを思い出そうとすると頭の中にモヤがかかる。 あの時彼はなんて言ってた? どんな表情でどんな瞳の色で私を見つめていた? それが答えだ。鮮明に思い浮かべることが出来なかった、それが私の答えだった。 ひとしきり泣いてひとしきり宥められて、やっと首を縦に振った時、自由になれた気がした。身動きが取れず、がちがちに固められた心が緩くほどかれた。 普通こんな別れをしたら疎遠になろうもんだが、私達は、私と律樹(りつき)の関係は不思議と良好だった。一度家族になる覚悟を決めていたくらいだから、未練なのか執着なのか分からないものに引き寄せられて、それでもアルコールに頼りながら世間話をしたり、仕事の相談をしたり、はたまた次の恋の相談なんて。 不思議だ。けどこれが正解だった。 そのうち彼には新たに結婚したい相手ができて、私も負けてられないやずるずるの男関係を精算しなければ、と思った矢先、律樹に相談する内容なんてここ最近はひとつしか無かった。 彼の、弟のことだ。
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