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古き良きセフレの烏養さんは私はおでこに優しくキスを落とし、殺人犯のような目付きで自分を睨む燐くんの頭をわしゃわしゃと撫でた。
スッキリとした香水の香りが無くなったと同時に、未だに眠気が取れない私はそのままベッドに倒れ込んだ。
「琥珀」
「ごめんね燐くん、私まだ眠いんだ……」
「じゃあ俺も一緒に寝ていい?」
「むにゃむにゃ」
「おっけ」
返事にもならない声を勝手に承諾だと解釈した燐くんが、容赦なくベッドに乗っかってきて、布団もかけてない私を引き寄せ一緒に柔らかな感触に包まる。
さっきまでしていた烏養さんの香りとは全然違う燐くんの香り。柑橘系の甘い香りに刺激され、パチッとやっと目が覚めた。
「あ、おはよ」
「……わー、またやっちゃった」
「うん」
「もう燐くん家に入れないって決めてたのに」
「やっぱり突撃は朝に限るな」
「今からでも遅くない、」
「遅いよ」
はっきりと声を発した燐くんは真っ直ぐに私を貫く。そしてもう一度「遅いよ、今さら」と言葉を落とす。どんなに誤魔化してもきっと彼には通じない、だから私は何も言えない。頑固なところはほんと、律樹とそっくり。
「……手遅れなくらい琥珀のこと好きなっちゃったんだから、いい加減俺に堕ちてよ」
ううん、まだ間に合うよ燐くん。大丈夫、そんな気持ちすぐに消えるよ。
私達だって、私と律樹だって忘れられたよ。かなりの時間をかけて蓄積したものもあっという間に消え去った。だから燐くんのその感情はほんの一瞬の戯れで、ほんの少しの揺らぎを与えれば、最初からなかったかのように消滅させることが出来るのも、私は知ってる。
けど今は朝だから。低血圧の私が何も出来なくなる朝だから。見逃してあげるけど、明日は貴方を全力で否定する。
眩しく煌めく瞳を見つめながら、私はまたウトウトと眠りに落ちようとしていた。「まじで酷いお前」と燐くんが吐き捨てた気がするけど、それでも彼の腕はさらに強く私を抱きしめた。温もりが心地よくて意識が溶けていく。
ねえ、酷いの分かってるなら。
私を好きな感情なんて、一刻も早く捨ててよね。
1.愛が、くすむ。fin
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