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「……琥珀?」
「……」
「……なんで泣いてんの」
「……昨日、律樹に会ったの」
ぽたぽたと、まるで壊れたおもちゃのように、無機質に落ちていく涙が彼女の服を濡らしていく。それを拭おうともせず、琥珀は俺をただじっと見ていた。いつもの透けるような茶色が、その雫のおかげでさらに朧気に今にも消えそうに俺を映す。
なんだそれ、なんなんだよ。
今まで見た中で一番、
「……律樹、結婚するんだね」
綺麗な色を映すんじゃねえよ。
咄嗟に彼女の腕をとった。細くて力を入れたら今にも折れてしまいそうな、白い彼女の腕を掴んだ。それに肩を震わせ、恐る恐る俺を見上げる琥珀に冷たい視線を落とす。
なあ、可哀想だな。結局ふっ切れたとかいい関係になったとか、そんなの全部詭弁だよな。どんなに他の男と触れ合って深く繋がっても、所詮は代わりにしかなれねえよな。寂しさだって埋めれないし、愛おしさも生まれねえだろ。
そんなのとっくに、馬鹿と見せかけて賢いお前は分かってたくせに。
もう手の届かない所にいる存在から落とされる一言で、こんなにも脆く崩れてる。
頑なに俺に触れることを拒んでいたお前が、こうして俺が触れることを許すのも、結局は兄貴を通してでしか意識されない自分が何よりも惨めで情けなくて張り裂けそうになってる俺の気持ちなんか、お前絶対分からねえだろ?
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