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「雨、降ってきた」
パラパラという音に気が付き、私は編んでいた木のかごを置くと、木を出て空を見上げた。どんよりとした空から雨が落ちてくるのが見えた。さっきまではよく晴れていたのに。
「いけない」
洗濯ものを干していたことに気が付き、私はあわてて中に戻り、木を登ると、枝にかけてあった洗濯物を回収した。
「よかった」
まだ少ししか濡れていない。
ふとあたりを見たが、私のような慌てた様子の人はとても少なかった。みんな、水があまりしたたり落ちないような木に住んでいる。
でもこの子は、すぐに水が滴り落ちてしまう。
洗濯物をかかえ、ゆっくりと下に降りると、自分で木の枝で作った不格好な箱の中にそれをしまった。作りが甘いせいで、箱の中にも水はしみるが、それでも外に出したままにしておくよりはずっとましだった。
「雨、やむといいねえ」
私は、私の木を見上げ、そっとつぶやいた。しとしとと降り込む雨に打たれながら私はひとり木を見上げた。
私たちは今、木の下で生活を営んでいる。いつからか始まったこの文化。昔はしらないが、今は強烈に根付いている。
木に生まれ、木に暮らし、そして木と共に朽ちていく。
それが私たちの生活のすべてとされていた。
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