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私は16の時、母の木を出て、私の私だけの木を探す旅に出かけた。
そして、この木と出会った。
ひとめ見たとき、この木だと思った。
「理想の木」小さいころはみんなその話が大好きだった。「大きい」「強い」「果物がおいしい」「枝が太い」私たちの話題はたいていいつも、思い描く理想の木のことだった。
近くの木に住んでいた子も、私と同じくらいに旅立った。
そしてずいぶん遠くまで行ったと風のうわさで聞いた。
彼女はとても賢くて、手先が器用で、何より、理想が高かった。だから自分の理想の木を探すためにどこまでも旅を続けたのだろう。
そして続けられるだけの才能があった。頭の良さと、手先の器用さは常に重宝される。
街の中には木細工の工場がいくつもあり、木を持たぬものはそこで生活するための資金を得ていた。紙幣はほとんど流通していないが、それでもそれを使ってものを買うことはできた。
彼女は街を転々とし、工場で働き、賃金を得、そしてまたさまよいながら、彼女の理想を追求していたのだろう。彼女のことを尊敬する面はあるが、それを私がやることはたぶん不可能だと思っていた。
私は、深く悩まず、この木に決めた。
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