第十三章 君想う、それが恋かと迷いつつ

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 俺が紅茶を飲むと、織部がクッキーを用意してくれた。俺が、腹が減っていたので、クッキーを瞬間で完食してしまうと、今度はホットケーキを持ってきてくれた。  どうも織部は無表情だが、かなり面倒見のいい性格をしていたらしい。 「かなり、省略して説明すると、薔薇の茨での夫婦でもあり、今は現実面でも織部が私のパートナーになっている」  古野は姫乃と結婚しようとしたが、姉の娘である事に気付いた。そこで、婚約を破棄し、事情を説明しようとした。 「姫乃さんに説明しようとしていたのに、この織部が別荘に来てしまい…………その、まあ、井戸を見ていたら、その場で抱かれてしまって…………」  古野を追ってきた織部と、中庭でかち合わせし、喧嘩及びそこで始めてしまったらしい。 「そして、姫乃さんに井戸に突き落とされた…………」  何が何だか事情が分からない姫乃は、古野の別れ話と、織部の存在に逆上し、パワータイプの車椅子で、突進すると二人を井戸に落してしまった。 「まあ、どうにか助かった。でも、姫乃さんを傷付けた事には変わりないので、そのまま失踪した事にしていた」  姫乃に近い、芝浦や波崎にも、古野は失踪したままにしておいた。 「それと、本当の名前に戻って、家督を継いだ。それもあって、古野という人物が消えた」  古野は自分の子供達にも説明しようとしていたが、本名よりも、織部と結婚した事を、どう告げようかと迷っていたらしい。 「織部は、いつも私のフォローをしてくれていて…………金持ちで、紳士で、頭も良かった…………」  死に掛けて、織部の存在を実感し、どうしても結婚したくなったという。 「こんなに…………いい男と、他人のままで終われないと思った」 「私もね、井戸に落されて、暗闇の中を流されて…………古野の手を探して、握った。二人でならば、死んでも怖くないと想ったけれど…………思いだした」  それは、二人のなれそめであった。
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