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25 years old
蝉が鳴いている。まるで、シャワーのように絶え間なく。
駅前のロータリーの中央には見事な向日葵が咲いていた。聴覚的にも視覚的にも、うるさすぎるくらいの夏だ。
じりじりと肌を焼くような陽射しのなか、あゆみはロータリーで待つ軽トラックに気づいて顔をしかめた。
助手席の扉にもたれかかっていた黒髪の青年は、髪の毛を計算された無造作に整えていた。
都会ではからかわれかねないド派手なアロハシャツに短パンという格好も、整った顔のおかげで中和されている。
「……自動車? いつの間に」
「なんと合宿免許で取ってきた」
得意気に免許証を見せびらかしてくる青年。
受け取ったあゆみは、それが本物であることを確認する。
「山守、吉太郎。っていうかたぬきが免許なんて取っていいの?」
「うるせぇ。現に取れたんだから問題ないだろ」
「……いいのかな。しかも限定じゃない」
「当たり前だ。オートマじゃ山道は登れない」
あゆみは父親のものであるはずの軽トラックに乗り込む。
回って運転席に乗り込んだたぬきはエンジンをかけながら毒づいた。
「で、どうしてひとりなんだよ。結婚相手を連れてくるって言ってたのに、前日になってやっぱりひとりで来るって言うから何事かと」
「うるさいなぁ。別れたてほやほやなんだから、そっとしといて」
たぬきはあゆみに思い切り顔を向けた。
よく見ると、あゆみの目元はわずかに腫れていた。メイクで隠しきるには限界のある腫れ具合だった。
「数ヶ月前から浮気してるだろうなーってのは薄々分かってたんだけど、実際は、浮気相手がわたしだったみたい。あーあ」
たぬきはけらけらと笑う。
「しかたねぇなぁ、じゃあ俺がもらってやるか」
「!?」
予想外の返しだったのか、今度はあゆみが驚いて目を丸くする番だった。
ぷいっ、と顔を窓際に背ける。
「……ばか」
「えっ?!」
あゆみの耳元が心なしか紅く染まっているように見えて、たぬきもまた、同じように照れて顔を背けるのだった。
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