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人は付き合っているからといって安心してはいけない。既婚者でなければ、恋人がいても結婚できるのだとこのとき思い知らされた。すごく悲しかったということを怜央に力説したが、彼から返ってきた返事はこうだった。
「何で付き合ってる人が結婚したのをSNSで知るんですか。毎日とは言わなくても連絡取り合うでしょう。何か変化に気がつかなかったんですか?」
おっしゃるとおり。私たちはそのときお互い仕事が忙しく、一ヶ月程度会っていなかったし連絡もほとんど取り合っていなかった。その間も彼は元カノとせっせと連絡を取り合い、会っていたことになるのに。もうそろそろ会いたいなと彼にメッセージを送り、元気かなと彼のSNSをのぞいたらこのざまだ。
「仕事が忙しくて一ヶ月くらい会ってなかったんだ。連絡もほとんど取り合ってなくて……」
そこまで言うと、私は言葉に窮して急に泣きそうになる。原因を作った私にも責任がある。もっとマメに連絡をすればよかっただけの話だ。
「違いますよ。谷さんを責めてるんじゃないですからね。男が最悪じゃないですか。元カノとずっと連絡を取り合って二股かけてたってことですからね。そのとき俺がもう谷さんに出会ってて、今みたいな関係だったなら絶対にぶっ飛ばしに行ってあげたのに」
珍しく語気が強かったのでそういう顔をしているのかと思ったが、表情はいつもどおり無表情だった。しかも、その細い腕ではとてもじゃないが人は殴れないだろうと、ふっと現実に押し戻され、溢れ出しそうだった涙が止まり、笑いが込み上げてきたことを今でも覚えている。
バグ修正は思った以上に時間がかかり、難しい場所ではないとなめていたら、すでに時間は夜十時前。目処はついたので、帰宅することにした。最近は定時で上がることが多かったので、十時前といってもかなり残業した気分になる。
暗い気持ちでエントランスから出るとあいにく雨が降っていた。最近多いこのパターン。朝も昼も夕方も降っていなかったのに今になってなのか、とがっくり肩を落とす。
さすがにこの時間に星良さんはいないだろうな。見上げると真っ暗な空に灰色の雲が渦巻く様子がうっすらと見えた。雲というより煙に近い。これではしばらく止みそうもない。
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