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「何でですか?」
「実はね、次期社長とか、そんな肩書きの人は絶対イヤなの」
「……お金持ってるのに?」
怜央の純粋な反応に思わず私は声をあげて笑った。微かではあったが怜央の眉間にシワを発見する。
「お金はないと困るけど、お金持ちである必要はない。自分でそれなりに稼げるし。それより本気で好きになる前でよかったって思ったよ」
「本気で好きになる前……とは」
「いや、好きは好きだけど、肩書きなんか気にならないほど好きになってなかったってこと。そこまで好きになってたら引き返せないから。今ならまだ引き返すことができる」
怜央はまだ理解できないようで首を捻る。
「次期社長がそんなイヤですかねぇ」
「社長だけじゃなくて、専務とか常務とかの取締役とか相談役とか全部イヤ。余計な付き合い増えそうだし、家事育児ワンオペになりそうじゃない?」
「それは相手によると思いますけど。忙しいを理由に何もしない人もいれば、しっかり家族の時間を取る人もいますよ」
「可能性の問題だよ。忙しいでしょ?社長とか。私も仕事続けたいしワンオペとか絶対無理だから」
怜央は怪訝な顔を浮かべた。
「星良……さんを庇うわけじゃないですけど、星良さんがどっちタイプかわかりませんよ」
「わからないからそれを探るほど好きじゃなくてよかったってこと。そもそも星良さんが私に興味あるとも思えないけど、万が一の話ね?」
「んー、納得はいかないですけど、とりあえず幹部とは付き合いたくないと?」
「うん」
「どうしても?」
「どうしても。……ほら、昔似たような人と付き合ってたでしょう?トラウマ的なね……」
怜央は終始不満そうな顔をしてついに押し黙った。
「私の話はもういいよ。ね、帰ろ?」
「……はい」
「私の傘は?」
「ないです」
「迎えに来てくれたんじゃないの」
「谷さんがいる確証はなかったので」
「確かに。それでも心配して来てくれたんだよね……何かのついでに、たまたま」
怜央はしばらく何か考える素振りをした。その表情を見て揺さぶってみたくなる。
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