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「偶然……なんだよね?」 「……偶然は偶然ですけど、故意的な偶然です」 「故意的な偶然?」  故意的な偶然とは何ぞやと一瞬戸惑う。 「昔見たドラマで当て馬の男がいたんですけど、そいつが言ってました」 「あ、当て馬?」 「そうです。ヒロインの相手は、プライドの高い有名イケメン俳優でもう完全に決まってたんですけどね、その当て馬役の町医者が言ってたんですよ」 「どういうこと?」  怜央は話そうかどうしようか若干ためらってから、ふーっと息を吐きゆっくり話を続けた。 「偶然は偶然だけど、あなたがいることを知って会いにきた、だから故意的な偶然ですよって、その当て馬はにっこりと恥ずかしげもなく言うんです」 「はぁ……」  私はイマイチ理解できないまま頷く。 「かっこいいなあと思って。偶然きっかけで会いに行ったわけです。もう彼女が好きなのはそのイケメン俳優だってわかっていたのに、わざわざ。つまり、俺も同じことですよね。帰り際に見たバグは単純でしたが、修正には時間がかかりそうだなと思いました。友達とのごはんが終わると雨が降っていました。この時間ならまだ会社に残っている可能性が高い、谷さんのことだから傘もないはず。よし、見に行ってみるかってなったわけですね」 「わざわざ?」 「わざわざ。それが故意的な偶然なんです」  そこまで聞いてもよく意味がわからなかった。私がわかりかねていることを悟って、さらにわかりやすく説明してくれる。 「要約するとですね、わりと本気で会いたいのと、会えたらいいなという思いで会社まで戻ってきた感じですね。週末なので二日間空きますし。結果こうやって会えましたし」  能面のような顔で愛の告白みたいなことを言ってくる怜央。週末だから二日間空くとか、中学生や高校生でもあるまいし、と思ったものの、彼はいたって真面目で冗談を言っているようには見えなかった。
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