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「……え、まさかとは思うけど」
「はい」
「今、私、口説かれてる?」
「そのつもりですけど、伝わらなかったです?」
「いや、そんなことはないけど……いや、そんなことはあるな」
「口説いてますよ」
怜央は再度同じ口調で言うも、のっぺりとした表情が変わることはないので、全く口説かれている感じがしない。
「だって、今までそんな感じじゃなかったよね?」
「転職してきてすぐ、隣の席の女性を口説き始める男とかイヤじゃないですか?まずはお前、ちゃんと仕事しろよ、みたいな」
「そりゃそうだけど、転職してすぐってことはないでしょう。好きになる時間とか何とか……」
「わりとすぐでしたよ」
食いぎみな上にあっけらかんとした顔で言ってのけるので、本当に私が好きなのか訝しむが、徐々に実感が湧いてきて頬が緩んでくる。いかんいかん、若者の気の迷いかもしれないと心の中で思い切り首を横に振った。
「信じられないですか」
「うん、ちょっとびっくりして」
「鈍感ですもんね」
「そうでもないけどな」
私は少し頬を膨らませた。私が鈍感なのではなくて、怜央の感情が読み取りづらすぎるのだ。
「俺に好かれると困ります?」
「んー、困ってはいない」
「ならいいですよね」
「何がよ」
「故意的な偶然で、運命とは全然違うかもしれないですけど」
怜央は薄く笑った。ちょっとの間、考えてみる。
「そんなまどろっこしいことしなくても、連絡くれればよかったじゃない」
「連絡先知らないですもん」
「……確かに」
私は苦笑した。
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